セルジオ越後 独占インタビュー
ブラジル・ワールドカップの開幕が、いよいよ近づいてきた。好評を博した連載『サッカーノート』も、この時期に相応しいビッグネームをお迎えして復活!
今回ご登場いただくのは、日本サッカーの御意見番としてお馴染みのセルジオ越後さんだ。祖国ブラジルで開催されるワールドカップに、第二の故郷の日本が出場する。越後さんにとって感慨深い大会のはずだが、だからといってコメントのキレが鈍ることはない。愛情でコーティングされた辛口トークは、日本代表のみならずこの国のスポーツ文化を鋭く切り取っている。。
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大久保の選出はサプライズではない
ブラジルW杯に臨む日本代表のメンバーから、お話を進めていきましょう。
「ひと言でいえば普通だね」
──驚きはなかったですね。ひとつだけ、サプライズがありましたが。
「サッカーチームは生き物と同じで、色々な表情を見せるもの。W杯アジア予選が終わった去年の6月以降を振り返ると、対世界という意味で課題が浮き彫りになり、問題も起こった。選手のパフォーマンスを見ていたら、ザック監督じゃなくても心配になるところはあったよ」
──所属クラブでコンスタントに試合に出られない選手がいて、ケガで長期離脱を強いられた選手がいて、リーグ戦でゴールから遠ざかるストライカーがいて。
「そのあたりの影響があって、ザックはいままでにないことをやった。大久保の代表入りが驚きを誘ったのは、2年以上も呼ばれていなかったから」
──サプライズと言われました。
「大久保が選ばれたのは、僕からするとサプライズじゃない。去年のJ1得点王だし、今シーズンも開幕から点を取り続けてる。サプライズは柿谷だよ。去年は21点取ったけど、今年は中断までに1点しか取れてないんだから。クラブの成績だけを見れば、柿谷は落選してもおかしくなかった。香川もそう。マンチェスター・ユナイテッドで、1点も取れずに終わった。大久保が選ばれたのは、柿谷と香川が不調だからでもあると思う。コンディションがいい人を選ぶこれまでの選考基準が、土壇場で崩れちゃった。海外ならたぶん、柿谷か香川は落ちてるよ。ホントなら豊田が入るべきだっただろう」
──なるほど。
「これがブラジルとかイタリアなら、柿谷か香川のどちらかを落とすべきだ、という議論が巻き起こったはず。柿谷のまえに1トップを務めていた前田は、クラブで取れなくなったら代表から外された。でも、柿谷は選ばれた。彼はレギュラー決定なの、と思っちゃうね」
──柿谷が得点から遠ざかっている理由は?
「精神的なものじゃないかな。本格的にスポットライトを浴びる土台が、まだできていなかったんじゃないか。周りが眩しくなったんでしょ。急にモテモテになったりして、アトランタ五輪前後の前園みたいだよ。まあ、アイドルを作りたいマスコミの思惑が、一気に彼へ注がれたところはあるんだろうけど」
──マスコミの思惑は、否定できません。
「今シーズンの彼は、ボールが足に止まらない。トラップミスをする。シュートを外す。スランプっていうのは、まだ精神的な柱がしっかりしてないから。サッカー以外のスポーツでも芸能界でも、スポットライトが眩し過ぎると周りが見えなくなる。理由は精神的なものだよ」
──大会直前のテストマッチで、復調のきっかけをつかんでくれればいいのですが。
「ワールドカップという短期決戦で計算できるのは、いまなら岡崎だよ。その次は大久保かもしれない。あとは、結果によって誰を先発に持っていくか。柿谷か、大迫か。せっかく大久保を選んだのに、ベンチスタートじゃ意味がないと僕は思うね」
──岡崎は頼もしいですね。直近のシーズンで、欧州主要リーグにおける日本人の最多得点を更新しました。
「彼はチャラチャラされない人。実力でメシを食ってる。だから結果を残す。繰り返すけどメディアは売り上げ重視で、一番のエースはAKBと同じ判断基準。ある程度のルックスがないとダメってこと。本田、香川、内田が、僕にはAKBと重なるんだ。でも、ホントのエースは岡崎であり、長友だよ。長谷部は本を出して有名になったけど、ブラジル代表のキャプテンは一冊も出してない。そういうところが日本らしいというか……。ワールドカップなのに、話題の中心にサッカーがない。ドラマティックなストーリーばかりを、メディアは欲しがる。サッカーを知らない人に向けて情報を発信するのも大切だけど、いつまでたってもサッカー文化が本物にならない」